最強プロモーション・心理コントロールの仕掛け人・プロデュース・ブランディング・集客コンサルティング
2006年12月13日
[スポーツライター上村智士郎の業界人独り言] 第53回 ◆クラブワールドカップに思う。

サッカーのクラブワールドカップが始まった。この大会は、世界6大陸のクラブチームチャンピオンが日本に集結して行われる、文字通りクラブチーム世界一を決める、国際サッカー連盟主催の大会である。一昨年まで30年近くに渡って行われていたトヨタカップ(ヨーロッパチャンピオンと南米チャンピオンの一騎打ち)に代わって、昨年から開催されていて、来年までトヨタの提供で日本で開催されることが決まっている。
そんな凄い大会なのに、ちょっと地味だと感じられる方も少なくないだろう。その原因の一つが4年に一度行われる国別対抗戦のワールドカップに対して、こちらは毎年開催されることで盛り上がりに欠けているのだろう。また6大陸の対抗戦と言っても、やはりヨーロッパと南米の実力は抜きん出ていて、その他の試合のレベルが極端に落ち、またそれらのチームにスター選手もいないことが挙げられるだろう。

さらに考えられるのが、長く日本ではワールドカップこそが世界一のサッカーの大会だと国内メディアによって鼓舞され、ワールドカップこそが最もレベルの高い大会として啓蒙され続けてきたことがあげられるだろう。はっきり言ってこの考えは誤りだ。現在世界で最もレベルの高いサッカーを見ることのできる大会はヨーロッパチャンピオンズリーグである。サッカーが緻密なチームプレーを要求される集団競技である以上、普段から長時間共にトレーニングを積むクラブチームの方が質の高いサッカーできるのが当然である。また国籍を超えて優秀な選手が集めれることもその理由の一つだ。何よりプロサッカー選手として最も大切な評価である年棒は、ワールドカップでの代表チームの一員としての活躍によって決められるのではなく、クラブチームの一員としての活躍によって決めれるのだから、かんばりようが違う。もちろん代表チームでの活躍もきっかけにはなるのだが。だから日本のメディアは、日本代表がJリーグとの練習試合に敗れることで大騒ぎするが、これは笑止である。世界的に見て代表チームが自国のトップクラスのチームより強いことは稀有だからだ。一方、南米のクラブチームのレベルがヨーロッパのそれに比べて劣るのはメジャーな選手がほとんどヨーロッパに流失してしまうからに他ならない。トップレベルのサッカーの力、質はかなりの部分で経済力に比例するのだ。

さて、昨年のこの大会で最も印象に強かったのは、アジアチャンピオンのアル・イテハドというチームの強さだった。サウジアラビアチャンピオンで、アラブチャンピオンでもあるこのチームは1回戦でアフリカ代表のアル・アハリに勝利し、2回戦では昨年優勝した南米代表のサンパウロFCと対戦し惜敗した。だがその強さはJリーグのチームとは比較しようもなかった。5年以上Jリーグのチームはアジアのタイトルから遠ざかっているが、このチームを見てその理由は明白になった。明らかにJリーグのチームはアジアのトップレベルに比べると弱いのである。日本のサッカー関係者はこれを日程や様々な間接的な理由のせいにしているが、それは誤りであり作為的に作られたものだ。誰が見てもこの試合を見れば明らかだ。ここ数年はグループリーグを勝ち抜くことさえできないでいるが、明らかに実力的に僅か数年の間に水を空けられたのだ。

一方、今年の大会ではオセアニア代表のオークランドシティFCの強さが印象的だ。開幕戦となった1回戦でアフリカ代表のアル・アハリに敗れたが、その力は日本のサッカー関係者が決して侮れることが許されるレベルではない。戦前このチームがアマチュアチームであるために軽視する報道がほとんどだったが、おそらく日本のJ1の中位の力はあるだろう。特に強靭な肉体に裏づけされた身体能力と運動能力の高さは目を見張るものがある。体型などをよく見るとおよそアスリート体型ではないアマチュア的な体つきなだけに、本格的にトレーニングをしようものなら、日本にとって恐ろしい結果が待っているように思えた。

日本人という国民は冷静に相手の力を評価する能力に欠けているのか? 蔑むことで安心するのか? 確かにヨーロッパや南米のように明らかに上位の相手には敬意を払うが、そうではない北米やオセアニア、アフリカの国にはあたかも彼らが自分たちよりもサッカーの後進国であるかのような扱いをする。ちなみにアメリカ国内のサッカーの競技人口は日本のそれよりも多いし、オーストラリアやニュージーランドは、サッカーの母国イングランドと同様エリザベス女王を君主に頂くイギリス連邦の一員なのである。サッカーという文化性の強いスポーツで、こうした文化的に背景は揺るぎないものだ。ちょっと本気になったオーストラリアの強さを、我々は今年のワールドカップで思い知ったばかりではないか? だがあの時も戦前、オーストラリア戦を白星と勘定している関係者、解説者がどれだけいたことか。先発メンバーのほとんどがイングランド・プレミアリーグのレギュラーであるオーストラリアに、スコットランドやオランダのような格下のリーグのレギュラーが2、3人いるだけの日本代表が勝つことはほとんど不可能な話だったのだ。

さて、このオークランドシティFCに既に日本のサッカーを引退して2年近くが過ぎた元日本代表の岩本輝彦が参加している。僅か1ヶ月半ほど前に加入したばかりだ。なぜ彼はこのチームにいるのだろう。報道によると、当初は岩本が自ら志願したという話だったが、最近はチーム側からオファーがあったということになっているようだ。いずれにしても現実的ではない。このチームが補強するなら当然現役の選手を選ぶし、ニュージーランドのチームが日本人の選手を補強する必要は無い。世界を見れば彼よりも優秀な選手は数限りなくいるのだ。しかもピッチの走る彼の姿は現役アスリートの姿ではなかった。ではなぜ彼が選ばれたか?

昨年は横浜FCの三浦知良がオセアニア代表のシドニーFCの一員としてこの大会に出場した。昨年はこのチームの監督が日本でもお馴染みで、横浜FCの初代監督のリトバルスキーだったのでそれほど違和感はなかったが、今年は明らかにおかしい。話題づくりのために誰かが仕組んだものだということは子供でも想像つくだろう。そういうことを考える人たちは、そんなことをやっていて本当のこの大会が世界一のクラブチームの決める大会に相応しい盛り上がりが実現すると思っているのだろうか? そう言えば、昨年に引き続き中継の前後に出てくる女性タレントの存在も気に掛かる。ただお飾りでいるならまだしも、勘違いをしてサッカーを語ってしまうから興ざめだ。日本のサッカーファンは彼女にサッカーの語られるほど、無知でもないしお人好しでもない。どちらも日本という国、その国のメディアの、スポーツに対する文化度の低さを物語るエピソードだ。

願わくば試合の自体が世界一を決めるに相応しいことを願うのみである。