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2006年11月22日
[スポーツライター上村智士郎の業界人独り言] 第50回 ◆故郷で夢を叶える元Jリーガー

先日、岐阜にFC岐阜というチームの取材に行ってきた。
FC岐阜はJリーグを目指して昨年生まれ変わり、現在地域リーグというカテゴリーで、Jリーグの下の3部リーグにあたるJFLに、チャレンジするポジションにいる。このチームが生まれ変わった背景には、森山泰行という元Jリーガーの存在が大きい。

森山は地元岐阜県の出身で、Jリーグがスタートした92年から岐阜のお隣、名古屋グランパスを中心に2004年に引退するまで、215試合で66得点をあげるなど活躍した。特に全盛期には世界的な名将ベンゲル監督下、サッカーの妖精と呼ばれたピクシーことストイコビッチらとプレーした。日本代表の出場は僅か1試合。どちらかと言えば記録より印象に残る選手だった。そうは言っても、正直関東に住む私にはそれほどの印象の強い選手とは言えないが、愛知県やその周辺のサッカー関係者にとっては、愛するスーパースターだったようだ。

その森山が、2004年末でJリーグを引退すると同時に、自分が出身した岐阜市に戻りFC岐阜に参加した。このFC岐阜は岐阜県サッカー協会関係者を中心に、Jリーグに加盟できるチーム作りを進めようとしていたのだ。この意思に森山が賛同し、プロとしてのキャリアを終わると同時にアマチュア選手として岐阜に戻ったのだ。

その後、森山自身が自治体の関係者との面談を重ね、スポンサー探しを繰り返して今のこのチームがある。彼は自分が育った岐阜の子供たちに夢を与えるためにと、チーム作りを進め、賛同者を募っていった。その彼の理念に共感し、今現在、全国リーグでもなんとかやっていくだけの資金も集まっている。また、このレベルとしては「規格外」と言われるほどレベルの高い選手たちが顔を揃えているのだ。

FC岐阜の選手は長髪、茶髪、ピアスを禁止をされている。子供たちの夢を叶えるためには、まず子供たちのお手本にならなくてはならないという森山の意思によるものだ。だから茶髪、長髪が常識のJリーグのチームを見慣れている私にとっては、黒い髪の選手ばかりの姿は新鮮だった。そしてそれはサッカーが未開拓だというこの土地で、このチームを受け入れてもらう方法でもある。そうした成果もあって、今年の2度のイベントでは、それぞれ7000人と12000人の人が会場に詰め掛けた。単発の無料イベントとは言え、J2でも平均5000人を動員できるチーム数少ない中、この段階では大健闘と言える。

だが、強い逆風も吹いている。それは岐阜県を取り巻く政治的情勢だ。今尚しこりを残す一昨年の郵政民営化を巡る衆議院選挙。元郵政大臣の野田聖子議員と刺客池田ゆかり議員が激突したのが、この岐阜1区なのだ。今月中にも実現するかもしれない野田議員の自民党の復党もあり、岐阜県政の混乱は続いているのだ。さらにこれに拍車をかけたのが17億円と言われる岐阜県庁の裏金問題だ。いま岐阜県の政治はサッカーどころではないという状況なのだ。岐阜市の支援は取り付けたものの、財政基盤となる大きな産業のない岐阜市だけでは、今後のステップアップには力不足なのは間違いない。

この岐阜FCが、今週末から行われる「地域リーグ決勝大会」に参加する。この大会で優勝すれば自動的に、2位の場合はJFLの最下位チームとの入れ替え戦の末、JFLに昇格できる。岐阜FCにとっては最初の目標である。そして近い将来のJリーグを加盟に向けて推進力をつけるためにも、ぜひとも今年昇格を決めておきたいところだ。この大会がテレビで中継されるようなことはないが、新聞の片隅にで結果を見つけたら森山という選手のことを思い出してほしい。