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2006年10月10日
[スポーツライター上村智士郎の業界人独り言] 第44回 ◆スポーツの大切なものを感じた時

10月6日お台場のお隣にある有明コロシアムにAIGオープンというテニスの国際大会を観に行った。最近では一時ほど注目されることが少なくなったが、数々の名選手がプレーし、その結果が世界ランキングのポイントに反映される公式戦だ。8日に決勝戦が開催され私が観に行ったこの日は準々決勝が行われていた。

こうしたテニスの大会は一日に数多くの試合が行われているのだが、お目当ての試合はロジャー・フェデラー対鈴木貴男の試合。現在男子シングルスの世界ランキング1位と日本人で現在最強と言われている選手の対戦だった。鈴木が日本一と言っても2004年以来世界一に座に君臨するフェデラーとは雲泥の力の差があることは間違いなかった。フェデラーが圧倒的な強さを見せ付けて圧勝するだろう。世界一の強さを目の当たりにすることを期待して私は会場に足を運んだ。

この試合が行われたのは金曜日の13時頃。この日の首都圏は激しい暴風雨に見舞われたにも関わらず、およそ1万人を収容する有明コロシアムは満員の人で膨れ上がった。私と思い同じにした人がたくさんいたのだろうか? それとも鈴木のファン? フェデラーのファン?

だが試合は思わぬ展開を見せる。試合開始早々に、まだエンジンの掛からないフェデラーのサービスゲームを鈴木がブレークし、そのまま自分のサービスゲームを全てキープして第1セットを取ったのだ。鈴木の武器はコンスタントに200キロ近くを表示する渾身の力を込めたスピードサーブ。更にサーブアンドボレーで一気にネットにつめてボレーを決める。第1セットはこうしたプレーが面白いように決まりポイントを重ねていった。一方のフェデラーもスピードこそ鈴木に劣るものの力強く正確なサービスを決め、ストローク戦では正確無比の配球で、自分のサービスゲームでは鈴木を全く寄せ付けなかった。

第2セットに入り、鈴木の善戦もここまでだろうと会場の誰もが思っていたと思う。だが試合の流れは変わらない。第2セットもお互いにサービスゲームをキープしたまま第12セットまで進む。ここで鈴木がついにサービスゲームを落とし、フェデラーがセットカウントを1対1のイーブンにした。

このセットの途中ひとつの岐路があった。第1セットに面白いように入ってた鈴木にファーストサービスが、疲れのためか徐々に決まらなくなっていく。失敗が許されないためにスピードを抑えたセカンドサービスが、フェデラーに狙い撃ちされ始めたのだ。なんとかゲームはキープするものの徐々にフェデラーに奪われるポイントが増えていく。そしていよいよフェデラーが鈴木のサービスゲームをブレークするかと思われた時、鈴木がセカンドサービスをファーストサービスと同様、渾身の力で打ち込み始めたのだ。この気力に圧倒されたのかフェデラーがリターンでミスが続けたのだ。最後には自分のミスでサービスゲームを失った鈴木だが、彼の開き直りとも言える思い切りの良さが、そのまま一方的になったかも知れない試合の流れを、ギリギリのところで踏み止まらせた。

鈴木の奮闘に場内は“まさか”の実現を期待して、彼を真剣に応援するモードに変わっていく。と同時に、ざわざわした物見遊山の雰囲気から一球一球、選手の一挙手一投足に集中する、勝負を観戦する雰囲気に変わっていった。

そうした雰囲気の中、最終の第3セットが始まった。このセットも流れは変わらず両者イーブンの攻防が続く。それどころかストローク戦でも粘りを見せた鈴木がフェデラーを追い詰めるようなシーンまで見ることができた。

鈴木の渾身を込めたプレー。そのプレーの間で沸き起こる鈴木コールと手拍子。王者フェデラーの恐ろしいほど冷静沈着、正確無比のプレー。そのワンプレー、ワンプレーへの送られる満場の拍手。極限まで張り詰めたようなギリギリの状況の中で、ゲームは一進一退の攻防を繰り返し、このセットをゲームカウント6対6のイーブンでタイブレークに進んだ。7ポイントを先にとった方が勝利するタイブレークで、フェデラーが渾身の力を込めてエースとパッシングショットを連発。ファイトをむき出しにし本気になった彼の姿に、場内は一瞬息を呑むような静寂に包まれた。

やはり世界王者は強かった。試合終了と同時に沸き起こる満場の拍手。それはすぐにスタンディングオベーションに変わった。その拍手に応えて片手を手を頭上にかざし、そして頭を下げ去っていく鈴木の後姿は遠目に見ても充実感に溢れていた。一方勝利したフェデラーはコート上でインタビューに答え、鈴木のプレーと戦いを見守った観客に賞賛の言葉をを贈った。

私も気がつくと立ち上がり彼らに拍手を送り、選手の名前を呼んでいた。最後まで諦めずに挑戦し続けた鈴木の姿。寒気が走るほどのフェデラーのサービスやパッシングショット。その全てに体が震え、目頭が熱くなるほどだった。
スポーツの真髄は、真剣に戦うプレーヤーの姿とそれによって生まれる感動だ。そこにいる全ての人が共有できる感動。それこそがスポーツの醍醐味なのだ。そしてスポーツに言い訳はいらない。言葉を発することを許されるのは勝者だけ。しかも賞賛の言葉だけが許される。二人のプレーと姿は、そうしたスポーツの最も基本となる大切な何かを思い出させて出させてくれた。

お詫び:いつもこのコラムではそのスポーツ特有の用語の使用はできるだけ控え、スポーツに興味のない方にもできるだけ理解して頂けるように心がけています。しかしながら今回はテニス用語の連発になってしまいました。お詫びいたします。