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2006年09月26日
[スポーツライター上村智士郎の業界人独り言] 第42回 ◆スポーツ大会とテレビの関係を考える

9月16日と17日の両日、フランスで柔道のワールドカップが行われた。フジテレビが二日間に分けて連休の午後7時というプライムタイムで放送したからご存知の方も多いだろう。今回で3回目を向かえる大会で国別の団体対抗戦のみで行われ、個人戦の世界選手権と区別されている。結果は女子が3位、男子は5位とプラムタイムを割いたフジテレビの期待を裏切るものだった。

フジテレビは現地時間で16日に行われた女子の対戦を17日に、17日に行われた男子を18日に放送した。日仏間の時差に関わらず19時からの放送に固執しために現代のスポーツ放送にあるまじきタイムラグが発生しているのだ。フジテレビにしてみれば第2のバレーボールを探して柔道をプラムタイムで放送したのだろう。

だが気になることがある。今回のワールドカップの結果をフジテレビの放送を見るまでどれだけの人が知っていただろうか? 日本ではあまり注目されていなかったと言ってしまえばそれまでだが、それにしてもあまりに情報が少なかった。特に男子が5位だったことの報道はほとんどと言って無かったのではないだろうか?

先週のコラムの中でF1のセナの大クラッシュを、私が深夜のフジテレビの中継(本来録画のものがこの事故のために中継になった)を見るまで知らなかったことを書いた。1994年の話である。当時インターネットはまだ始まったばかり。海外スポーツの結果は注目の高いスポーツはテレビのニュースで、それ以外は翌日または翌々日のスポーツ新聞を見るまで知ることはできなかった。

特にF1の結果は中継録画以前に知ることは無かった。決してメジャースポーツではなかったから当然と言えば当然だが私は作為的なものを感じた。まず録画を放送するフジテレビは直前のスポーツニュースで、スタートの様子は伝えても結果は「この後の放送をご覧ください」と言って番組に誘導していたと記憶している。だが私は当時テレビ局のスポーツ報道に勤めていたお陰で職場にいる限りリアルタイムで結果を知ることができた。当然この条件は他局も同じだ。だがその結果があまり当日中に報道されることはなかった。

10年の時が流れインターネットが普及し、一般の人がリアルタイムの情報を得易い環境にはなった。だが本当に情報はリアルタイムに発信されているのか? 先日日本や韓国で行われていたバレーボールのワールドグランプリ。予選の戦いはフジテレビがプラムタイムであたかもライブであるかのように放送していたが、その多くはライブでは無かった。その時中継に先んじて結果や経過の情報はもたらされていたか? 同じ時期に行われたバスケットボールの世界選手権はTBSが放送したが、決勝戦の日、19時前に試合が終了していたのにも関わらず、録画放送が行われる23時までの結果を掲載したサイトはほとんど無かった。大会公式サイトでさえトップページには結果を掲載せず、奥に入った結果ページのみの掲載だった。

実はこのような大会を開催するような一部の競技団体から、ポータルサイトやスポーツの情報サイトに対して、放映権を持つテレビ局の放送が終わるまで結果を掲載することを控えるような要請が、実際に行われているようだ。多額の放映権料を払ったテレビ局の視聴率が少しでも上がるようにする配慮だ。一方インターネット側もこれに逆らえばその後の取材活動に悪影響が出ることが予想されるし、横並びであれば損はしないという判断があるのだろう。リリースのタイミングが恣意的にコントロールされることが現実に起こっているのだ。

一部のスポーツサイトが得意としている「テキスト速報」と呼ばれる文字による試合の経過速報にしてもそうだ。東アジアで行われているような比較的時間差の少ない試合が、時間差で放送されているテレビの放送に合わせて更新されているのがご存知だろうか? これも一部には競技団体の意向が働いているようだ。

今やテレビの放送が無くてなりたたない大型のスポーツイベント。試合の進行や内容的にもテレビ局の意向が反映することが多くなっている。先進国であるアメリカでは、例えば前後半制だったバスケットボール(NBA)がCMのタイミングを作るためにクォーター制になって久しい。アメリカンフットボールでも、試合中で最も視聴率が期待できる第4クォーター、試合終了2分前に自動的にタイムアウトが取られるルールがあるが、これもCMのタイミングを作るためだそうだ。そう言えばウィークエンドでの開催が当たり前だったアメリカンフットボール、さらにヨーロッパでもサッカーが、月曜日の夜に1試合だけ開催されるのもテレビ局の視聴率稼ぎだ。

日本ではこうした顕著にテレビに対応するためのルール変更は見当たらない一方で、プロ野球のようにむしろテレビの事情を無視し続けているスポーツもある。いつになっても改善されない試合進行の遅さはその最たる例だ。またバレーボールのようにやたらに世界大会を開催している競技もある。競技団体にとっては収入が増え、テレビ局は頻繁に開催されることでスポンサーが定着し、今のところは視聴率にも繋がっている。両者のメリットは一致しているのだ。だがどれが本当の世界一を決める大会なのか見る側に混乱が生じてるのも事実だ。

今後テレビ局と競技団体との関係は更に蜜になることが予想されるが、その結果がどのようになるかは分からない。いずれにしてもスポーツファンを置き去りにするような本末転倒はくれぐれも謹んでほしいものだ。