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2006年09月13日
[スポーツライター上村智士郎の業界人独り言] 第40回 ◆オシムが学ぶべきこと

6月に行われたドイツワールドカップで、期待された1次リーグ突破を果たせなかったサッカー日本代表は、すでに4年後の南アフリカワールドカップに向けてスタートを切っている。ジーコ前監督に代わって日本代表監督に就任したのは、直前までジェフユナイテッド千葉の指揮を執っていたイビチャ・オシム。彼は90年のイタリアワールドカップで母国、旧ユーゴスラビアの監督としてベスト8になっている。

9月3日と6日この日本代表が、敵地でサウジアラビア、イエメンと対戦した。来年開催されるアジアカップの予選である。このアジアカップは、年齢別にカテゴライズされている日本代表のうち、年齢制限の無いA代表と呼ばれるチームが参加する2つの公式大会のうちの一つである。ちなみにもう一つはワールドカップである。オシムジャパンは、今回の格下と言えるチームとの連戦を1勝1敗に終わった。もちろん決勝大会に進むことに不安を抱かせるほどではないが、多くの疑問が残る戦いぶりだった。

後一歩のところで点が奪えず敗れたサウジアラビア戦、ギリギリのロスタイムのゴールで勝ったイエメン戦もいずれも終始日本ペースだった。だが攻撃にも守備にもテーマが感じられず、ベンチワークにも具体的なものがなかった。一言で言って、現在の日本代表は過去10年間で最も弱い日本代表ではないだろうか? アジアを勝ち抜くことが目標だった時代に逆戻りしたような印象だったのだ。

それはなぜか? 理由は選手の選考にあるように思える。オシムは"考える"サッカーを標榜する一方で、明らかに"動ける"選手を選考している。もちろん今回選ばれた選手が自分で考えないわけではない。だが多くは走るばかりで自分のことで精一杯なのだ。例えば"司令塔"にあたる選手がいない。ディフェンスでもリーダーになる選手がいない。戦術だけでなく精神面でも同じことが言える。確かに世界的に見ても、かつてに比べ、そうしたリーダー的な選手の重要性は低くなっている。それでも今回のワールドカップを見ればチームリーダーの必要性は明らかだった。

さらにオシムの選手選考は、意識的に前監督ジーコとの差別化をしているように思える。ヨーロッパに移籍した選手を重用したジーコに対し、オシムは今までのところ無視に近い。国内組でもビッグネームを好んだジーコに対し、オシムは名前に関係なく世代交代を進めている。それはとりも直さず、目の前にある試合で勝つことを必要としていない、今は負けても構わないという選手選考だったように思える。

全世界のサッカーの目標は、4年に一度行われるワールドカップに優勝することである。新しい日本代表、オシムジャパンは2010年に行われる南アフリカ大会に向けて歩み始めたばかりだ。だから長いスタンスで見るべきだという声も多いだろう。オシム自身も同様に語っている。だが、だからと言って負けていいものではない。と言うよりは、もし今のような選手選考を続けるならば、日本代表はアジアレベルで負けることは許されない。

2002年のワールドカップ終了後に、ジーコを日本代表の監督に指名した川淵キャプテンの手腕は見事だった。自国開催でピークにあった日本代表の人気が、大会終了後に落ち込みことを最小限に抑えるために、日本でも名前の通った世界的なビッグネームを登用することは最高の演出だった。そしてそのジーコも人気選手を意識的に使った。それによって日本代表の人気は保たれたのだ。そこでは監督としての手腕も勝敗も関係ない。むしろ負けることが危機感を煽り、話題を提供した。

6日のイエメン戦は日本時間の21時30分と"いい時間"に行われた。だがスポーツ好きの多い私の周囲でも、この中継を見なかった人が多かった。「知っている選手がいないから見る気がしない」というのが、そういう人たちの声だ。このままではこうした傾向がさらに強まるだろう。だからオシムが今のような選手選考を推し進めるならば、彼は勝つしかないのだ。勝ち続けて話題を作り、勝って新しいヒーローを作るしかないのだ。

日本のマスコミは今の日本代表をアジアナンバー1と言って憚らない。多くの人々がそれを信じている。そしてそのイメージの下に多額のお金が動き、日本代表やサッカー協会、Jリーグを支えているのだ。それどころか日本代表は、日本のスポーツマーケティングの頂点にあると言っても過言ではない。そんな日本代表がもしアジアレベルの大会で無残な形で負けるようなことがあれば…。

今回の中継の合間には、日本サッカー協会のスポンサーにもなっている企業のCMが流され、その映像でジーコジャパンの中心となった人気選手がボールと戯れていた。だがその選手の名前はオシムジャパンのメンバーリストには無い。代表監督がどんな選手を使おうが勝ち続ける限り誰も文句の言いようが無い。だが、たとえ目先の試合とは言え、負け続けるようなことがあれば、多くの人が選手選考に異を唱えることになるだろう。

日本代表は、かつてオシムが監督をしていた東欧の一国の代表チームとは全く違う存在だ。彼は自分が今指揮を執っている代表チームが、市場経済のど真ん中にいることを学ぶべきだろう。