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2006年04月24日
[スポーツライター上村智士郎の業界人独り言] 第36回 ◆スポーツの視点から見た“ワンセグ”サービス

テレビの放送の新たなサービスとして“ワンセグ”なるものが話題を集めている。技術的な細かいお話は専門家の方にお任せするとして、4月から始まったこのサービスで携帯電話やカーナビといった移動端末でも、これまでと比べて格段に見やすい状態でテレビを見ることになったようだ。
(私は実際にまだ見たことがありません)

当然、スポーツ放送もこの影響を受けないわけはない。例えば高視聴率が当たり前になったサッカーの日本代表戦を例に取れば、今までは一部のスポーツバーなどのお店を除いて、「サッカーがある日は商売になりませんよ」という飲み屋さんも少なくなかった。それが携帯電話で良好な状態でテレビを見ることができるとなれば、スポーツバーなどに行かなくても、居酒屋などでお酒を飲みながら仲間と日本代表戦を楽しめるようになるわけである。少なくともこれまでのように、慌てて家に帰らなくても大切なシーンを見逃すということはなくなるだろう。カーナビの付いている車を愛用している人も同様だ。車で日本代表戦を観戦というシーンも多くなるだろう。大画面の観戦は家に帰ってから録画してある映像を見ればいいのだ。

あまり語れていないが、実はこの“ワンセグ”は専用のチューナーが内蔵がされていればパソコンでも見ることができる。既に一部のメーカーではこうした機能を搭載したノートパソコンも発売されている。おそらく“ワンセグ”が見れるパソコンは今後も増えていくだろう。それどころか携帯電話にも搭載できる大きさを考えれば、PCカードやUSBメモリーのアンテナ兼チューナーが発売され、従来のパソコンで“ワンセグ”が見れるようになる可能性は高い。これまでパソコンでテレビを見る環境は、光ケーブルの接続やテレビのアンテナ端子が接続などが必要とされ限定されていたが、これで一気に広がることになる。あまりセキュリティにうるさくない会社にお勤めに方なら、会社のパソコンにこっそりUSBチューナーを差してテレビを見ることができるようになるのも、すぐ目の前のことだろう。
ただし残念ながらこの“ワンセグ”はあくまでも移動端末を対象にしたテレビ放送なので、基準となる画面の大きさも普通のパソコンの画面の4分の1以下。画質も端末に負荷がかからないように抑えてあるから、大画面モニターのパソコンで楽しみたい方は、従来のシステムでご覧になることがお勧めだ。

いずれにしてもこのようにテレビの視聴環境を大きく変えてしまうであろう“ワンセグ”サービス。この結果として日本がテレビの番組の価値のよりどころにしている“視聴率”にも大きな影響を与えてしまう可能性がある。
現在の視聴率は、固定のテレビを対象に世帯別で集計されている。だから“ワンセグ”を見れる移動端末はこの対象となっていないのである。

具体的に考えてみよう。サッカーの日本代表戦が行われる水曜日夜。今までだったら、会社に勤めるその家の一人娘は大急ぎの家に帰って日本代表戦を見ていた。その横で本当はプロ野球を見たい父親も、娘に合わせてにわかサッカーファンを演じていたわけだが、娘が“ワンセグ”機能付いた携帯電話を買った途端に状況は一変する。
娘は彼氏とデートをしながらカフェでサッカー観戦。父は帰らぬ娘にさびしさを覚えながら安心してプロ野球を観戦できるわけである。
この家庭が視聴率調査の対象となっていた場合、この家庭の水曜日のプラムタイムの視聴動向はサッカー番組から野球番組に変わることになる。これまでも、テレビが一家に一台の時代からパーソナルテレビの時代への変化によって、世帯別の調査を疑問視する声も多かった。娘の部屋にテレビがあれば、確かに居間のテレビは世帯主の嗜好でチャンネルが決められる可能性が格段に高くなり、世帯構成などのデータも全く意味を持たなくなっているからだ。ワンセグのサービスによってこの傾向はさらに強まり、例え一人暮らしであっても、その数値があてにならなくなる可能性が高まるのだ。

そもそも視聴率は関東全世帯でも対象となるのは3000世帯程度と統計学上から見れば誤差の範囲である。その誤差にテレビ局は一喜一憂し、その数字にスポンサーがお金を払ってきたのだ。対象数が少なければ、数値の変化が著しいしく現れるリスクがある。僅かな偏りが視聴率というデータでは大きな差となって現れる可能性があるのだ。これは視聴率データが元々抱えているウィークポイントではあるのだが。

特に例にあげたサッカーの日本代表戦のようなスポーツのライブ番組では、その数値によって番組の価値が判断される要素が大きい。それによってテレビ局は高額の放映権料を払って、そのスポーツイベントを放送しているのだ。
だが、今後もしその数値が当てにならなくなったとしたら、何を指針にテレビ局はスポーツ放送の価値を決めていくのだろう。それどころかこれから何がテレビの基準となるのだろう。
テレビ自体の技術革新、一方ではパソコン、携帯電話といった周囲の情報機器もその存在を脅かしている。テレビ放送が一つの岐路に立っていることは間違いないだろう。

次回は「放送と通信」の融合をスポーツの現場から考えます。