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2006年03月28日
[スポーツライター上村智士郎の業界人独り言] 第33回 ◆WBC雑感

ワールドベースボールクラシック。通称(?)いや略称(?)WBC。メジャーリーガーが事実上初めて参加した野球の世界大会。先週の前半は、この大会での日本代表の期待以上の奮闘とまさかの結果に日本中が乱舞した。メジャーリーグでもトップクラスの選手を並べるアメリカやプエルトリコを退け、日本が世界一になることなど誰が想像していたであろう。

今年初めて開催されたワールドベースボールクラシックは、アメリカの野球リーグで最上位のメジャーリーグが主催した野球の国際大会で、実は参加国も僅か16カ国と世界大会と呼ぶのは無理があるほど少ない。世界的な主な野球大会としては、ロンドンの本部を置き世界112カ国が加盟する国際野球連盟が主催するワールドカップと、オリンピックがある。ワールドカップは1938年から世界選手権として始まり2年から4年おきに行われ昨年で36回を数える。長くアマチュアだけの大会だったが98年大会からはプロ選手の参加も認められている。だが国際野球連盟にはメジャーリーグが傘下に無いためにメジャーリーガーの参加していないのが現状である。一方オリンピックでは1984年に参考競技として導入され、以後公式競技として毎回開催されてきたが、次回の北京オリンピックを最後に競技から外されることが決まっている。実はこのオリンピック競技から野球が外されることが、WBC開催のきっかけになったという説がある。国際オリンピック委員会はメジャーリーグに対して、メジャーリーガーの選手のオリンピック参加を要請したが、これをメジャーリーグが断ったために、野球がオリンピックから外された。メジャーリーグは、「では独自に世界大会をやってやる」となって、今回のWBC開催に至ったという説である。いずれにしても、最高レベルの選手たちによる国別対抗戦が開かれたことは、世界的に見ればまだまだマイナースポーツである野球のグローバルな発展に大きく寄与するだろう。

さて日本代表の活躍に目を移そう。王監督の指揮の下、日本中を興奮させた日本代表だったが、準決勝の前までは苦戦の連続だったことはご存知の通り。宿敵韓国には2敗を喫し、アメリカにも、審判の問題があったとは言え、惜敗している。その大きな原因は、王監督の采配だったと私は思っている。
王監督の野球、選手起用はセオリーと順序を守った堅い野球である。選手起用では選手の主体性とプライドを重んずる。だから短期決戦の今回の大会と言えども、投手の継投はいつも同じで、例えば先発要員がリリーフに回ることは決勝戦まで無かった。イチローの一番打者にギリギリまでこだわり続けたのをはじめ、打順も現実よりもいわゆる“並び”を重視する。それは見ていると歯痒くなるほどだった。
そうした采配の最たる出来事が、準決勝の韓国戦の先制の場面の直前に起こった。0−0で迎えた7回。日本はノーアウトから4番松中が、ライト線の2塁打で出塁。試合は終盤。当然次の打者は送りバントでランナーを三塁に進め、1点でも先取点を取り行くの常套で、王監督もその選択を選んだ。だが悪いことに打者は5番多村。最初からバントの構えでバッターボックスで立ちながらも、普段自分のチームでバントを命じられることなどあり得ない長距離打者は、予想通り松中を2塁に釘付けにしたまま、アウトカウントを一つ増やしただけに終わった。ここでは本来なら、バントが得意な選手を代打に送るのが正攻法なはずだ。それが出来ないのが王監督の指揮官としての限界だった。

だが世界のホームランキングには、そのままでは終わらなかった。1アウトランナー2塁。6回まで韓国打線を無失点で抑えてきた上原も、そろそろ限界が近づいている。日本が勝つためにはこの回に点を取ることが絶対条件だった。ここで王監督が代打に送り出したのは、この大会ここまで打率1割台と不振を極め、この日スタメンから外れた福留だった。世界中の監督の中で誰がこの選択をするだろうか。だが皆さんがご存知の通り、その福留がホームランを放ち、日本が先制したのだ。

世界的なトップアスリートは極限状態になると常人には考えられないような、何か運を運び、勘のようなものを発揮する。ホームランの世界記録を持つ王監督もその一人だったようだ。それがこのシーンに現れた。更に振り返ってみると、今回の日本代表は運に恵まれていた。アメリカがメキシコに破れ日本が準決勝の進んだことは言うまでも無いが、韓国戦の先発が上原だったことも大きい。立ち上がりの弱い松坂だったら、試合結果は逆になった可能性は高いからだ。7回にドラマがあったのもここまで上原が韓国打線を無失点に抑えていたからこそ。だがこの日上原が先発だったのは、ローテーションの結果に過ぎないのだ。また福留のホームランのお陰で、バントに失敗した多村が精神的に助けられ、次の打席にホームランを打つことが出来たことも大きいだろう。このホームランが、決勝戦でキューバ相手に日本打線が大爆発した引き金になったはずだからだ。もっと細かく見ていけば、もっとたくさんの幸運があったはずだ。それが日本野球の運なのか? 王監督が生来持ち合わせているものなのか?

さてもう一度大会全体に目を向けよう。大きな驚きの一つが、日本対韓国だった準決勝、日本対キューバだった決勝戦共に、スタジアムが超満員だったことだ。確かに西海岸のサンディエゴというアジア系が多く住んでいる土地柄ではあるが、やはりアメリカやそれに近い国ではない対戦でもあれだけの盛り上がりを見せてくれるのが、アメリカという国であり、アメリカにおける野球というスポーツなのだろう。
そして日本に目を移して見よう。今まで日本人の野球をスポーツバーなどで見る感覚は無かったはずだ。野球が見れてもメジャーリーグの試合が中心で、実際には多くの場合その主役の座はサッカーだったはずだ。だが、今回のWBCでの王監督が率いる日本代表の活躍で、日本人の野球もその市民権を得たに違いない。これからは野球もトレンドスポーツの一役を担っていくのかもしれない。

最後のもう一つ嬉しいことがあった。まずアメリカの野球におけるイチローの存在だ。大会前WBCの公式サイトでは、グローバル(アメリカ圏の)で流されたこの大会のCMを見ることができた。そのCMで最初の登場するのが誰あろうイチローだった。クレメンスやAロッドら、メジャーリーグ屈指の選手たちが居並ぶ中、彼の姿が最初に登場することは同じ日本人として誇らしいし、彼がMajerleager of Majerleagersとして評されているいう話を裏付けるものだった。
そして王監督の彼の選手としての記録への評価の高さも驚きだった。決勝戦の直前、始球式のためにマウンドへの向かうメジャーリーグで通算最多本塁打の放ったハンク・アーロンとの、グランド上での2ショットの記念撮影。それは紛れも無く、メジャーのホームラン王と世界のホームラン王の二人の姿だった。アメリカの球場から比べれば遥かに小さい日本球場での868本という通算記録。だがその功績はこの大会で間違いなく世界のホームラン王、サダハル・オーとして再び世界のスポーツシーンに刻み込まれたのだ。日本の野球も結構捨てたもんじゃないらしい・・・。