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2006年01月27日
[スポーツライター上村智士郎の業界人独り言]◆ 第26回 「ホリエモンとプロ野球」

 誰も驚いたライブドアの堀江前社長の逮捕。一連の事件をライブドア事件と呼ぶらしいが、その主人公を一躍有名にした事件が、同社が一昨年、経営不振のためにオリックスとの吸収合併に走った近鉄球団を買収に動いたことだった。
 近鉄が消滅してパリーグのチームが5球団になる話はほとんどの日本人にとって寝耳に水。
 そこに救世主のごとく現れたのがライブドアであり堀江前社長だった。その後も新球団創設のために大きなアクションで動き、楽天球団誕生のベースを作った。
 最後の功は楽天とソフトバンクにさらわれたが、これまでのオーナーたちによって縮小されようとしてた日本のプロ野球を、6チーム+6チームの現体制を維持できたのはライブドアの功績だ。
 同時にライブドアの挑戦は日本プロ野球界の暗部をあぶり出した。法外な加入金で既得権益を守っている時代遅れのルールや、ファンの存在を無視する球団経営の体質が次々と明らかになったのだ。
 そうした背景があったからこそ、プロ野球選手会がストを決行する勇気を得たのだろう。
 あの時期、プロ野球だけでなく日本全体が熱く燃え上がった。そのきっかけを作り、その中心にいたのが、堀江前社長率いるライブドアだったのだ。

 あれから1年以上の時間が過ぎ、状況は大きく変わった。ライブドアはニッポン放送買収問題でケチがつき、プロ野球問題時の好印象はかなり拭われたが、それでも日本の社会構造を改革するパイオニアの印象はさらに高まった。そして堀江前社長が参院選立候補。
 惜しくも落選したがその健闘ぶりは賞賛に値するものだった。その間ライブドアはM&Aを繰り返し、企業として巨大化し株価も上昇した。
 総資産1兆円を数える大企業に駆け上がっていたのだ。そしてはじけた。

 その間プロ野球はどうだったのだろう。具体的に変わったことと言えば、セパ交流戦が行われるようになっただけだ。
 これは一見ファンサービスに見えるが、実はファンの要望というよりはドル箱と思われていた巨人戦を開催したいパリーグのチームの要望だった。
 その交流戦は、昨年は皮肉にもパリーグ球団であるロッテの予想外の頑張りで盛り上がった。だが今年はどうなるか?
 選手会が、ストの際に問うていたFA権の改革やドラフトの自由化と言った、プロ野球の構造を根本を変える改革案はどこに言ったのだろう?
 あれだけ声高に改革を要求してた選手たちが、ストが行われた一昨年のシーズンオフの契約更改を終えると寡黙になった。
 契約更改の席上で球団と何が話されていたかを想像するのは容易い。スト決行を決めた時の古田会長の涙は一体何だったのか? 今思うとただの茶番ようだ。

 だがファンはそうした状況をしっかりと見ているようだ。その象徴が巨人の凋落だ。松井秀喜の流出以降人気低迷が著しい巨人だったが、ついに昨年の終盤には本来ゴールデンタイムに中継されるべき巨人戦が、深夜のダイジェストに降格されるまでになった。
 視聴率20%を争う民放のゴールデンタイムで、確実10%を切る今の巨人戦がひっそりと真夜中に放送されているのは当然のことだ。
 その状況を踏まえて巨人は大鉈を振るい改革を行ったはずだった。監督をさわやかイメージの原監督に代え、ヒトの家から金の力にものを言わせて強引に連れてきた選手たちを放出して、かなりの軽量化を計った。
 だが、生来の本質は変わらないらしい。結局その穴に昨年ロッテの主軸だった李スンヨプ、小坂誠を手に入れて原監督はご満悦の様子だ。
 これでは今までと何も変わりは無い。「原、お前もか」 やはりこのチームはもう自分で選手を育てたり発掘する気はないらしい。

 このように改革は掛け声だけに終わり、結局、安穏した経営を続けている経営者たちとそれにすがっているいくしかない選手たちの状況は変わることはなかった。
 だが一部に改革の足音が聞こえていないわけではない。日本シリーズを優勝したロッテの、ファンとの一体化を目指す動きはその一例だ。あの成功を見て新たな試みに踏み出そうとしている球団も少なくない。
また村上ファンドの阪神球団株の大量買付けという外圧もかかっている。歴史と人気に支えられた阪神タイガースが村上タイガースになってしまう危機を迎えているのだ。
これはプロ野球球団の経営者の改革を必要された出来事だ。プロ野球球団として他の企業と同じように企業防衛を行ない、その権益を守らなくてはならないのだ。はたしてどんな形で着地点が見出されるだろうか?

 小泉首相と並んで日本社会の改革の騎士だった堀江前社長の逮捕劇で、日本の改革ムードは一気に水を刺さされるだろう。その一方で果たしてプロ野球改革は進むのか?
 確かに一時に比べて、少年年代の野球の競技人口は大きく持ち直している。だがそれは決してプロ野球自体に人気が持ち直したからではない。そのことは巨人戦の視聴率を見れば一目瞭然だ。海の向こうのメジャーリーグの人気と、先行していたサッカーのエリート育成優先の思想が親たちの嫌気を呼んでいるからに他ならない。
 自民党や政府のように、現体制の最後の生き残り手段として、自らプロ野球版“小泉”を呼び起こせるか?第2の堀江、第2のライブドアの登場を待っていては時代に取り残されてしまう。
 

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●上村智士郎 さん●

Jリーグチームの応援番組の演出や、CS放送のサッカー中継のディレターを手がける一方、サッカー 専門誌をはじめ各種スポーツ雑誌、スポーツ紙、インターネットサイトに記事を掲載。またスポーツ系インターネットサイトや選手のホームページのプロデュースも行う。現在は女性向けスポーツ情報フリーペーパー「ABUSOLUTELY SPORTS」をプロデュース。

S.blend Inc 代表取締役

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