9日、フリースタイルスキーのモーグルのトリノオリンピック代表に、長野オリンピック金メダリストの里谷多英が決まった。
この競技がオリンピック種目になった1996年のリレハンメルオリンピック以来4大会連続出場という快挙である。
だが、この1年は里谷にとって不遇の年だった。昨年2月、ワールドカップで見違えるように演技で連続して入賞。
特に猪苗代大会では3年ぶりの表彰台に上り、懸念されてルール改正のよる影響も払拭し、1年後に来るトリノオリンピックに向けて順調に助走ができたという矢先、暴行事件でマスコミの餌食となった。
これによって3月の世界選手権の代表の座を取り消され、アスリートとしての活動もままならない状態に陥った。
そのマスコミ熱のほとぼりも冷め、新シーズン開幕となった昨年12月には練習中に肋骨を痛め、予定していたワールドカップ2戦への出場を取り止めた。
さらに今月7日に行われた大会では35名中34位で予選落ち。まさに踏んだり蹴ったりの1年だった。
そんな里谷に吉報をもたらしたのは、スキー連盟の理事会だった。9日に開催された理事会では満場一致で里谷のオリンピック代表を決定したのだ。
その理由は彼女の実績と類まれな勝負強さだという。だが実績で選ばれると言っても、今の彼女の状況はあまりにも悪い。
長く実戦から遠ざかっていた上に、7日の大会の前日に行われた公開練習で首と顔を痛打し、試合の出場も危ぶまれる状況だったのだ。
またいくら彼女に類まれな勝負強さがあると言っても限度がある。これまで彼女がメダルを取った2度のオリンピックには、直前のワールドカップで連続して入賞するなどそれに相応しい結果を出して臨み、栄冠を手に入れているのだ。
それでも里谷をオリンピック代表に選ぶにはスキー連盟の苦しい事情がある。彼女と上村愛子を継ぐ選手がいないことだ。
昨年12月には伊藤みきがワールドカップで決勝ラウンドに進んだものの、16人中の最下位。今シーズンが始まるまで世界ランキング10位だった里谷には遠く及ばない。この状況で2大会連続してメダルを取っている里谷を選ばず、しかも上村も結果を出せなかった場合には、大きな責任問題に発展する可能性もある。
一方もしかしすると里谷がフジテレビの職員であることも少なからず影響を与えたかもしれない。
そんなお家の事情があろうが無かろうが、選ばれた以上は里谷はれっきとした日本を代表するオリンピック選手である。
日本の競技団体はこれまでとかく、臭いものには蓋。事なかれ主義で、問題児的な選手を排除してきた。
彼女は今年自らナショナルチームを辞退し、自力でトレーニングを重ねて、個人の資格でワールドカップに参戦した。
新聞沙汰になった暴行事件もさることながら、一般的に見れば評価されるこうした行為も、これまではほとんどの競技団体で“跳ね返り”と捉えられ、よくは思われなかったはずだ。
先にも述べたように、スキー連盟は寛容であるがために、彼女をオリンピック代表に選んだわけではない。
だが、理由はともあれ、今までの基準に照らせば“規格”とは少し外れた選手が日本の代表選手として選ばれて、できることなら世界の舞台で活躍する。
そんな時代が日本のスポーツの世界にもやってきてもいいのではないだろうか?
そんな時代の幕開けが訪れるために里谷多英のトリノでの活躍を期待したい。
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●上村智士郎 さん●
Jリーグチームの応援番組の演出や、CS放送のサッカー中継のディレターを手がける一方、サッカー 専門誌をはじめ各種スポーツ雑誌、スポーツ紙、インターネットサイトに記事を掲載。またスポーツ系インターネットサイトや選手のホームページのプロデュースも行う。現在は女性向けスポーツ情報フリーペーパー「ABUSOLUTELY SPORTS」をプロデュース。
S.blend Inc 代表取締役
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