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2006年01月05日
[スポーツライター上村智士郎の業界人独り言]◆ 第23回 「新年早々、箱根駅伝に思う」

新年あけましておめでとうございます。

 さて、早速ですが新年と言えば今年も大盛況だった箱根駅伝。ご存知の方も多いように東京大手町と箱根の間の往復200キロ強を、10人のランナーが“たすき”を繋いで競うというとんでもないレースだ。80年以上の歴史を持ち根強い人気のあった大学スポーツだが、ここ十数年をかけて年々盛り上がりを見せ、すっかり国民的行事となった。近年人気の落ち込みが激しい大学対抗のしかも関東の大学だけが出場するイベントなのにも関わらず、その盛り上がりはすさまじい。一重に事実上の主催と言える日本テレビと読売新聞という2大メディアの力の強さだろう。

 今年は特に、トップが何度も入れ替わるほか、見所が盛りだくさんの全く目を離せない激しいレースとなった。
 結果だけ見ても往路(2日の大手町→箱根)こそ言わば大関クラス(往路だけ見れば順当)の順天堂大学が優勝したが、復路(3日の箱根)で優勝した法政大学と、総合(往復を合わせたタイム)で優勝した亜細亜大学は、戦前全く遡上に上がらなかった言わば伏兵だった。さらには中央学院大学というこちらも駅伝の世界ではほとんど実績の無い大学から2つもの区間賞(同じ区間で最も早いタイム)が出ている。こうした想定外の大学や選手の活躍がレースを非常に面白くしたのだ。
 その原因はやはり戦力の均等化だろう。大学とて生き残り策が必要となった昨今。多くの大学がこの箱根駅伝を格好の宣伝の場として考え、陸上競技に力を入れるようになったのであろう。伝統校から新興の大学まで関東の大学がバランス良く姿を見せるようになった。やはりこのイベント(番組)で大学名を連呼されることは大きな効果があるのだろう。その結果一部の大学だけの独壇場でなくなったわけだ。

 ただ、すっかりメジャーになったこのイベントを中継する日本テレビには今ひとつのがんばりを期待したい。前述のように想定外の展開になったレースだったためか、今年は目に余るシーンが数多くあった。今年を、しっかりと事実を伝えるという基本に立ち返る良いきっかけにしてほしいものだ。

 そしてもうひとつ気になったことが、順天堂大学の選手が脱水症状を起こした件だ。おそらく中継をご覧になった方をはじめ、その後のTVのニュース、新聞などでも多くの方がご存知だろう。第8区でトップを走っていた順天堂大学のキャプテンが残り7キロあたりで脱水症状らしき症状を見せ、にもかからずその後も意識朦朧とした状態で走り切り、たすきを繋いだという“感動物語”である。が、この状況で褒められるのは走り切った本人だけである。周囲の対応には首を傾げざるを得なかった。

 箱根駅伝は20人のランナーの全てに1台ずつ伴走車が付き、この車にそれぞれの大学の監督とオフィシャルが乗って選手と併走している。そして今回のような緊急事態の場合、ルール上監督は車から降りて、身近で指示をするなり水を与えるなりすることができるらしい。今回順天堂大学の仲村監督は3度車から降りて、ペットボトルで水を与え、耳元で声をかけながら励まし、蛇行する選手を前に進ませた。だがこの監督のとった行動は正しかったのか?
 結局、選手は一瞬意識を失いかけた時に立ち止まった以外、歩いても立ち止まってもいない。言い換えれば仲村監督は意識の無い選手に歩かせることも止まらせることもしなかったのだ。そして3回とも水は僅かに口に含んだだけなはずだ。
 何も棄権すべきだったと言うつもりは無い。少なくとも、監督に冷静な判断力と正しい知識があれば、その後の順天堂大学のレースも違ったかも知れないのだ。最初に症状が出た段階で脱水症状は明らかである。だが行われたことはペットボトルで水を渡して本人の意思で平常時と同じように飲ませるだけだった。しかもその状況にありながら走り続けさせたのである。脈が平静時に近づくまで歩かせて、冷静に話しかけながらゆっくりと多目の水を摂らせる。日ごろ鍛えているしかも若いアスリートである。それに要する時間は1分、2分とかからないだろう。それ以上かかるようであれば棄権すべきだ。そしてそこからもう一度走らせればよかったのだ。そうすればあれだけ大きなタイムロスは無かったかもしれない。僅かな時間を惜しんだためにレースという意味でも大きなものを失った可能性が高い。もちろん止まらせることで緊張の糸が切れて動けなくなるリスクがあるのも事実だが。
 今回のような事態は、どんなチームにもいつ何時でも起こり得ることだ。選手の管理のため、また自らのチームを勝利に導くために、指導者はただ走らせるための知識だけでなく、時に歩かせたり立ち止まらせたりする勇気とそのための知識を身に付けてもらいたいものだ。
 そしてさらに一つの気がかりなのは、こうした非常事態で車から降り選手に近づいた監督が、ルール上選手の体に触れることが許されていないらしいことだ。このような“不測”の状況で身体を触れずに何ができるのか?
 額や首に手をあて体温を測り、首筋や手首で脈を測り、選手のコンディションを把握できて初めてその後の適正な処置ができるはずだ。早急なルール改正を望みたい。

 もちろん、上記のようなことが適正に行われていたら、メディア的にはこれほどの盛り上がりは期待できないが…。

 年明け早々苦言になったしまったので、箱根駅伝からちょっと心に残った話を。
 初優勝した亜細亜大学の岡田監督は、レース直後のインタビューでの「夢がかないましたね?」という質問に、「夢が実現するのが早過ぎてびっくりしています」と答えていた。しかし中継の終盤、岡田監督のこれまでの苦節が数多く伝えられていた。その岡田監督は60歳、監督就任7年目。にも関わらず「早過ぎて…」と言えてしまうとは…。私など人生まだまだ勉強すべきことがたくさんあるようです。

 今年はサッカーのドイツワールドカップの年。きっと日本はサッカー一色になってしまうんだろうなあ。でもスポーツはサッカーだけではありません。サッカー以外のスポーツ、マイナースポーツも含めて取り上げて行きたいと思いますの、今年もご愛読の程お願い致します。

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●上村智士郎 さん●

Jリーグチームの応援番組の演出や、CS放送のサッカー中継のディレターを手がける一方、サッカー 専門誌をはじめ各種スポーツ雑誌、スポーツ紙、インターネットサイトに記事を掲載。またスポーツ系インターネットサイトや選手のホームページのプロデュースも行う。現在は女性向けスポーツ情報フリーペーパー「ABUSOLUTELY SPORTS」をプロデュース。

S.blend Inc 代表取締役

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