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2005年11月18日
[スポーツライター上村智士郎の業界人独り言]◆ 第17回 「世界大会をなぜ開きたがる?」

 11月16日、東京国立競技場でサッカー日本代表対アンゴラ代表戦が行われて1−0で日本が勝利した。後
半44分の劇的な決勝ゴール。つくづくジーコという監督は幸運の星の下に生まれたのだなあと、一人頷いてい
た。

 さて今日書きたいのは、この日本代表の強さやジーコの運の良さの話ではない。
 この日も国立競技場は超満員だった。私の友人なども2、3週間前から「チケット余ってませんかねえ?」と
尋ねてきた。代理店やチケットビューローにも付き合いのある人だから、彼が困るのはよほどのことだろう。だ
からと言って私のところで手に入るものでも無いのだが。いつも超満員の日本代表戦。それについて不思議に思
ったことは無いだろうか? ワールドカップを目指す代表戦ならいざしらず、今回のアンゴラ戦はただの練習試
合である。しかも相手はアフリカの名も無い国。かなりサッカーに詳しい人でもここの選手の名前を挙げられる
日本人はいないだろう。日本よりもサッカーが盛んな欧州や南米でも、これほど代表戦が人気だという話は聞か
ない。もちろん、列強は公式戦以外はレギュラークラスが揃って試合をすることが珍しいという事情もあるのだ
が。最近はそうした練習試合もTVでオンエアーするようになったので、時にはスタンドの様子も気にしてご覧
になるといい。よほど国内リーグの方が客席が埋まっているはずだ。
 ちなみにこの代表の練習試合の昨今“テストマッチ”と日本のマスコミは呼んでいるが、この“テストマッチ
”はラグビー用語で代表同士の試合のことを指す。言葉は変化するものなのでそれそれで良いのだが、以前から
スポーツのメディアに関わっている人間にとってはちょっと耳に引っかかっている言葉の一つである。
 話を戻そう。世界でも例を見ないほど代表戦が常に満杯になるようになったのは、ここ5年くらいの出来事で
ある。Jリーグが開幕してからも、しばらくはJリーグや欧州サッカー人気の陰でに苦戦したのが嘘のようだ。
日本代表の協会関係者の並々ならぬ努力と代理店の的確な戦略があったのだろう。そして2002年の自国での
ワールドカップでの開催が、今の状況を確かなものにしたことは言うまでもない。

 さて、そんなサッカー人気を横目に指をくわえて見ている競技団体がある。ラグビーである。かつては人気ス
ポーツの一角を占め、国立競技場はサッカーが行われる日はガラガラ、ラグビーが行われる日は超満員という時
期が続いたが、今は日本代表戦でも国立競技場より二回りも小さい秩父宮ラグビー場でも満員にできないのが実
情だ。一部、特殊なチケッティングシステムのお陰で大学ラグビーの一部だけは、空席を見ずにすんでいるよう
だが。
 そんな日本ラグビー協会が2011年のワールドカップの開催地の立候補し、その結果を出るのがこのコラム
を書いている11月17日だ。しかしラグビー協会の皆さんはワールドカップを開催さえすれば、競技の人気が
高まると思っているのだろうか? 
 ラグビーは世界的に見るとアジアのレベルが極端に低いということもあって、日本は第1回大会の85年から
5回連続でワールドカップに出場できている。だが強国とのレベル差はあまりに大きく、1995年大会には1
7−145の史上最多得失点差でニュージーランドに敗退している。これをきっかけに日本の強化が進んだかと
言えばそうではない。昨年ロシア、アメリカなど、かつては日本と同レベルと言われていたチームが来日したが
、力の差は歴然。さらに昨年の11月の欧州遠征ではスコットランドに8−100、ウェールズに0−98で敗
れて帰国している。これでは“テスト”どころではない。それでも世界ランキングが10位台だというマジック
が協会関係者の目を雲らせているのかも知れない。

 万一、今の状態で日本でワールドカップが開かれれば、その大会中は盛り上がるに違いない。イングランドを
はじめ世界のトップレベルの“本物”のプレーがこの目で見れるのだから。だがその後は? 本物を知ってしま
った人たちはもう偽者では満足しなくなる。日本国内での凋落が明確になったのは、95年のワールドカップで
の100点差以上の差をつけられて敗戦してからだと関係者は認識していないのだろうか? あれで今まで自分
たちが見ていた日本のラグビーが偽者だったと気が付いたのだ。サッカーだって2002年で3連敗していたら
10年前に逆戻りしていたはずだ。「日本のサッカーは偽者だったんだ」と。
 そうこうしている内に、来年バスケットボールの世界選手権が日本で開かれてしまう。どうやらアメリカのド
リームチームの参加がほぼ決まり、イベント的には成功を収める可能性が高いが日本代表はどうなのだろう。こ
こで日本代表が連戦連敗を繰り返した場合、その後に悲惨な状況が待っている。

 強化とこうした世界的な大会の開催は必ずリンクしていなければならない。イベントばかりが先行した場合、
その反動が大きい。特に現在の日本では“観る”スポーツの価値と“やる”スポーツの価値は全く別のものであ
る。観客が多いからと言って、必ずしも競技人口を増加し強化に結びつくとは限らない。“観る”スポーツとし
ての価値を高めて、一時的に金儲けを狙う人たちの言葉に惑わされず、“やる”スポーツとしての価値の高め、
長期的な視点に立って競技人口の増加と強化を図っていくことが、競技団体に課せられて使命であるはずだ。

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●上村智士郎 さん●

Jリーグチームの応援番組の演出や、CS放送のサッカー中継のディレターを手がける一方、サッカー 専門誌をはじめ各種スポーツ雑誌、スポーツ紙、インターネットサイトに記事を掲載。またスポーツ系インターネットサイトや選手のホームページのプロデュースも行う。現在は女性向けスポーツ情報フリーペーパー「ABUSOLUTELY SPORTS」をプロデュース。

S.blend Inc 代表取締役

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