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2005年10月21日
[スポーツライター上村智士郎の業界人独り言]◆ 第14回 ファンの心はいずこに…

およそ2週間前から始まった、阪神電鉄、TBSの株の大量買付け騒ぎは一向に収まる様子を見せない。近いうちに村上ファンド、楽天の今回のアクションに対し、阪神電鉄もTBSもどのように対応するかが明らかになるだろう。原則的には当事者間の話であり、買われた側が納得すれば一つ目のハードルはクリアできるものだ。
楽天がTBSを事実上買収をした場合(楽天側は事業統合と言っているようだが、感覚的にはそんな穏やかものには感じられない)、楽天がゴールデンフェニックスを所有しているために横浜ベイスターズを手放さなければならないことは十分に想像できたが、あまりにも先を急ぎ過ぎているのではないだろうか?

 まして売却先を見つけてまで自らの正当性を主張するのには、首を傾げたくなる。もちろんこうした準備が早い段階から水面下で進むことは当然のことである。だが、それを公然と口にし、既成事実のように物事を進めようとすることは、これとは全く別の次元の問題だ。

問題はファンの心だ。横浜ベイスターズなら横浜ベイスターズ。阪神タイガースなら阪神タイガース。そのチームごとにファンに支えられて成り立っている。彼らの多くはある時に仕事を早く切り上げ、ある時は仕事の合間をぬって、大切な時間をさいて球場に駆けつける。しかも無料で見ているわけではない。キチッとお金を払って見てくれているのだ。そうした人たちの心情が彼らの頭の中には全く思い描けないのだろうか。企業買収の専門家の村上氏はともかく、楽天の三木谷氏は一般消費者を相手にする巨大ポータルの所有者である。その彼がそうした消費者心理が見えないとしたら…。

先週の土曜日、出張で大阪に行ってきた。最終ののぞみで新大阪に着いて、飛び込んだビジネスホテルは、東京でのぞみに乗る直前に、三木谷氏が経営する会社のトラベルサイトで携帯から予約したものだった。
そんな時間に到着したのに関わらず、まだマッサージがしてもらえる。腰と首筋が慢性疲労状態の私は泊まりの出張の時の習慣となっている電話をフロントにした。

やってきたのは、深夜1時を過ぎているというのに、元気でよくしゃべる“おばさま”。その彼女はマッサージの腕そのものも最高だったのだが、彼女の手が動き続ける約40分に渡り、阪神電鉄買収、阪神タイガースの上場について話し続けたのだ。
「あんな、カッコエエこと言うても、ただの乗っ取りやない。えげつない人やわあ。怖いわ。大阪の人であの人がテレビに写っているとチャンネルを変える人仰山おるで…」
「岡田(監督)は苦労して苦労して、やっと優勝したのに、あんなんで水差されて気の毒やわあ。岡田も私らも素直に喜ばれへんがな」
などなど、あたかも阪神タイガースのファンクラブ代表の声を聞いているような夜だった。その彼女が最後に
「大阪人は、面倒なの嫌いやから、ゴチャゴチャ言うンやったら、もう誰も甲子園行かんようになるで。みんなそう言ってるで」と。
 彼女の言葉に阪神タイガースのファンのうち、どれだけの人が賛同するかはわかならい。でもその言葉が阪神タイガーズという文化を育ててきたファンの心理であることは間違いない。

「上場するということは買収される可能性がある。ということ。そうでなければなぜ上場するのか?」
 村上氏の言葉は正論である。だがお金と相場の常識だけを振りかざし、ファンの心に蔑ろにしている行為の行くへが、果たして村上、三木谷両氏の思っているような形で結実できるのか? もちろん誰にも分からない。だが、大切なものを置き去りして来ていることだけは間違いないように思えるのだが…。

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●上村智士郎 さん●

Jリーグチームの応援番組の演出や、CS放送のサッカー中継のディレターを手がける一方、サッカー 専門誌をはじめ各種スポーツ雑誌、スポーツ紙、インターネットサイトに記事を掲載。またスポーツ系インターネットサイトや選手のホームページのプロデュースも行う。現在は女性向けスポーツ情報フリーペーパー「ABUSOLUTELY SPORTS」をプロデュース。

S.blend Inc 代表取締役

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