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2005年10月14日
[スポーツライター上村智士郎の業界人独り言]◆ 第13回 阪神タイガースの上場に心配する。

 このコラムを書いているのは10月14日。
 世間は楽天&村上ファンドのTBS株大量取得で揺れています。
 ただ、この話題のおかげで村上ファンドの阪神電鉄買収、そして同社の阪神のタイガースの上場の提案の話題はすっかり影が薄くなりましたが、この問題が日本のスポーツ界にとって大きな意味を持つことは間違いないでしょう。

 本来株式会社にとって目指すは株主のメリットです。
 上場企業であればその目的はさらに義務となります。

 その株主のメリットを生む最も端的な方法が、売り上げを伸ばし利益を上げることでしょう。
 それによる配当や株価が上がり、株主はメリットを享受できるわけです。

 ただここで問題なのが、営業利益の増大とチームの成績が比例するのかということです。
 もちろん、チームが強ければ、スタンドが埋まり、テレビでも放送され、グッズも売れ、球団は儲かり、それよってその利益が株主に還元されるわけです。
 でも必ずしもそうでしょうか?

 たとえば、阪神タイガースのような人気球団の場合、チームが強くなくてもファンは球場に足を運びます。
 特に人気選手がいればその可能性は高いでしょう。
 であれば、大枚はたいて強力なチームを作って優勝を目指すよりも、1点豪華主義で人気選手を手に入れ、後は無理にお金をかけずに中庸なチーム編成をした方が、企業経営という観点から見たときにコストパフォーマンスが高く、多くに利益をあげることができるかもしれません。
 その可能性が明確になった時、上場した株式会社阪神タイガースはどこに向かって舵を取るのでしょう。
 これは企業としてのメリットが球団(スポーツチーム)としての強さと必ずしも一致しないというあくまでも一例です。

 ほかにも気になる点はいくつもあります。
 選手にストックオプションとして株を持たせるということが経営の方策に一つとして例に上がっていたようですが、まず、何を基準にそのストックオプションを行使できるでしょう。
 在籍期間を基準にするのはプロのスポーツ選手としてベストは言えないでしょう。
 雇用法などによって守られていないプロ野球の選手は本人の意思はもとより成績に関わらず移籍させられるからです。
 場合によってはストックオプションを行使させないために、球団はその選手を放出することが可能なのです。
 今年シーズン途中でメジャーリーグを首になった野茂は、オプション契約のオプションが発生することを防止するためにチームを去ることになったわけですが、それと同様なことがストックオプションの導入で起こり得るでしょう。
 それが企業の利益にマッチすることが明確になれば方法はいくらでもあるはずです。
 また、他チームの選手、関係者がこの株を購入した場合、どのようなことが起こるのでしょう。
 多くの良からぬ想像が頭をめぐります。
 その他、気になることは次々と浮かんでは消えます。

 確かに、新しいことが始まる時に問題点ばかりをクローズアップしていても進展はありません。
 また村上ファンドの今回の提案が、時代の経済理念や状況に整合して、かつ前向きなこともよく分かりますし、彼らが言う通りに物事が進めば、多くの人がハッピーになる提案だとは思います。
 しかし、株の世界とスポーツの世界が絡んだ時に、どの程度の確立で、彼の言う通りの結果が導き出せれるのか? 相容れない部分、矛盾する部分、不確定要素があまりに多いような気がしてなりません。
 そして失敗すれば、日本のスポーツ界は阪神タイガースと言う固有の文化を失うことも覚悟しなくてはなりません。
 もしかするともっと大きな事態にも…。

 


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●上村智士郎 さん●

Jリーグチームの応援番組の演出や、CS放送のサッカー中継のディレターを手がける一方、サッカー 専門誌をはじめ各種スポーツ雑誌、スポーツ紙、インターネットサイトに記事を掲載。またスポーツ系インターネットサイトや選手のホームページのプロデュースも行う。現在は女性向けスポーツ情報フリーペーパー「ABUSOLUTELY SPORTS」をプロデュース。

S.blend Inc 代表取締役

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